Tokyo Wandering Things vol.9-韓国のエンタメは凄い-
今週月曜のアカデミー賞を久しぶりにリアルタイムで追っかけました。受賞の瞬間、地下鉄で某所に向かっていたのですがスマホで中継をみながらウルっとしてしまいました。「パラサイト」はまだその地点まで届かないだろうな、と思っていたのですが、届いてしまいました。ここ数日この話題はテレビやSNSでも盛んなので記事にするかどうしようか迷ったのですが、自分の備忘録的に書こうと思います。
2019年最高の作品
アカデミー賞で今年最高の1本として作品賞を受賞した「パラサイト」ですが、私は昨夏に本国公開されてから日本公開を待ちに待って、初日に観に行ったほどこの作品を楽しみにしていました。理由は本国での人気が高かったことと、元々韓国映画は面白いのでチェックしているのと、安心安定の出れば間違いない俳優ソン・ガンホが主演だったこと、ポン・ジュノ作品は好き嫌いが分かれるのですが、ソン・ガンホが組んだなら間違いないなと思っていたのです。
内容については書きませんが、鑑賞した人と感想を話すと年代、性別、立場、価値観で随分と感想が分かれる映画だなと思いました。バブル経験世代には格差社会などはイマイチぴんと来ないし、能力はあるのに仕事がないといった状況も理解が難しいようでした。もっと上の世代だと韓国特有の貧乏な絵が不潔だと感じた人や、そもそも韓国ってなんかヤダと思った人も。もっと下の世代だと韓国=面白い!のようなライトな感覚でコメディの部分を楽しんだようです。個人的には半地下でピザ箱を組み立てるあたりが大好きです。
日ごろから韓国映画はよく見ますし、映画から韓国の歴史について、社会問題について、ソウルに行って感じる空気感などを通して、この映画の作られた背景なども感じながら鑑賞したので、色々突込みどころ満載の場面はありますが、これが韓国映画!人を楽しませる、惹きつけるエンターテーメントなんだという理解として非常に楽しめました。素晴らしい作品だったと思います。
受賞後に「韓国とか興味ないけど観てみよう」という人が多くいると思います。韓国ってK-POPとか食事とか最近流行ってるよね、くらいの知識の人が観てもある程度楽しめるのがこの映画の凄いところなんじゃないでしょうか。それが大衆に向けたエンタメ!そこがオスカー受賞に繋がった所以だと思うのです。
ポン・ジュノ×俳優の化学反応
脚本賞、監督賞をポン・ジュノが獲りましたが、ポン・ジュノの脚本を演じきった俳優陣が素晴らしかったと個人的には思ってます。先に名前を挙げたソン・ガンホがなぜ主演俳優にノミネートされないのか、、、家政婦役のイ・ジョンウンも素晴らしかった。この二人は2017年の「タクシー運転手」にも出てて、パラサイトに感銘された方は是非「タクシー運転手」もオススメです。ポン・ジュノ作品では「殺人の追憶」、ソン・ガンホ主演のNetflixオリジナル映画「麻薬王」も良いし、同じくNetflixドラマ「椿咲くころ」にはイ・ジョンウンさんが出ててこちらも非常に良いです。あとソン・ガンホ主演の「大統領の理髪師」「密偵」も大好きです。
パラサイトは脚本も良かったと思うのですが、俳優の演技が凄く良かったからあの作品が成立したし、ポン・ジュノ凄い!だけではなくてもっと俳優の力も評価されて欲しいなと思うのです。韓国の俳優さんは本当に上手い人が多い。ハリウッド進出がイ・ビョンホンくらいしかいないのが残念です。
韓国映画の面白いところは、悲惨な事件や時代をテーマに描くのですが、笑って楽しめる要素も必ず織り込んで、でも最終的には考えさせられる作品にまとめあげるところだと思います。だから気持ちが重くなり過ぎず楽しめるんですよね。
超競争社会だからゆえの本気度
このブログでは全く取り上げてきませんでしたが、韓国への渡航は50回以上、パリへの渡航と同じくらいソウルには行っています。10年以上前から商品の買付で行きはじめたのですが、時間ができると大阪や九州に行くよりもソウルへと言う感じでなんとなく仕事でもやもやするとサクッと行ってパワーをもらって帰ってくる場所です。
とにかく街がエネルギッシュで、日本人が美徳としている、謙虚さとか空気を読むなんてしてると置いていかれてしまう、そんな場所です。だから新オープンしたお店が3か月も経たず閉店するし、新規ブランドが半年で過去のものになるし、中途半端なものや人気がなくなったものは一瞬で消えていく。映画やドラマ、ブランド、飲食など大衆の評価が厳しくて本当に良くないと(愛されないと)生き残っていけないのが韓国なんだと思います。だから本気度が違うのです、評価3では生き残れないから皆4以上を目指して100の力で戦っている感じがします。
日本のエンタメや小売り、飲食はなんとなく評価3.5くらいを狙っていて評価3で生き残れるような感じが多くて、そこそこ良い感じを抑えつつ、経営的に安パイなところに置いていくようなビジネスが多い印象です。そこが韓国の成功を掴み取るパワーや人を惹きつける力との大きな違いなんではないかと思います。日本も潜在的に4を狙えるのに、3くらいで商売になるから4狙うリスクを冒さない、、、それがなんとなく楽しいものが生まれにくくなってるところだったりするんです。
世界で戦うこと
海外を旅していると最近どこに行っても昔に比べて日本人よりも韓国人に出会う事の方が多くなっています。韓国人はメジャーじゃない場所への個人旅行で多く見かけます。そして顕著なのは20代の若い世代の海外への個人旅行が圧倒的に日本人よりも多い。彼らは無邪気に土地を楽しんでいて海外だからと臆することなく堂々としていて、外国語も抵抗なく話す。自分の意見をしっかり伝える、態度で示す。海外の友人にも「コリアンの方が意欲的よね」とよく言われます。
まだまだ各地で人種差別はあるし、東洋人に対しての偏見もあるし、女性蔑視も、宗教の違いもあって、なかなか難しい壁も多いのですが、それを怖がって諦めたり、躊躇することなく、ナチュラルにできている彼らの方があらゆるボーダーを越えて、世界に出ていくパワー、チャレンジして世界で戦っていくパワーを物凄く感じます。社会情勢も悪く、4年生大学を出た3人に1人が就職できない社会にあってもこんなにエネルギーに溢れていること、これが今回オスカーを掻っ攫った原動力のような気がします。
今回のオスカー受賞に自分がなぜこんなに感動してしまったか整理する意味も込めてこの記事を書きはじめました。「期待してる自分」と「諦めている自分」とでなんとなく「諦めている自分」を置くことで、ダメだった時の保険をかけるようなところがあって、自分でもとても日本人的だなと思うのですが、韓国の人は恐らく「成功」だけを信じて、自分が信じたモノに100を掛けて、そのパワーでオスカーを獲ったのだと思います。この受賞自体は自分の功績でも全く関係ない一作品ファンですが、今回の受賞に勇気をもらえたのでした。
日本の中では「○○製」、「○○ブランド」、「誰それがオススメしている○○」みたいなものが注目されたり社会的に成功したりしているのですが、もうそういう固定概念なく、単体を個人が見て「良い」OR「悪い」、「好き」OR「嫌い」が個人レベルで厳しく評価して判断していける社会になるともっと世界で勝負できる面白いものが生まれるんじゃないかなと思います。
パラサイト受賞はそういう概念やボーダーを越えていく勇気や力を感じさせてくれました。